2024.01.22
川崎病院の拡がる循環器疾患治療の選択肢
医療法人川崎病院は、神戸市兵庫区に位置する278床の中規模急性期病院です。全35床の循環器病センターを有し、同フロア内にHCU・救急外来・心臓カテーテル室が設置されています。患者さんの受け入れから、検査・治療とスムーズに対応できることを強みとしています。
今回循環器内科部長の西堀祥晴先生に循環器疾患の治療についてお話をうかがいました。
患者さん1人1人に寄り添い、より低侵襲な治療を。
循環器の疾患に対する「血管内治療」とは?
「血管内治療」とは、どのような治療ですか?
血管内治療とは、カテーテルと呼ばれる直径2~3mmの医療用チューブを、手首の動脈などから血管内の病変があるところまで挿入して血管の中で行う手術のことで、「カテーテル治療」とも言います。循環器内科におけるカテーテル治療は、血管をターゲットにしたものと、不整脈をターゲットにしたもの(カテーテルアブレーション治療)の2つに大きく分けられます。
私は動脈硬化を基礎とした血管の病気の治療を主に担当しており、狭心症や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などに対するカテーテル治療を専門としています。狭心症や心筋梗塞に対しては、心臓の冠動脈の狭窄・閉塞している部分をカテーテルで治療する「PCI(経皮的冠動脈インターベンション)」や、脚の動脈が動脈硬化で閉塞してしまう閉塞性動脈硬化症に対しては「EVT(末梢血管カテーテル治療)」など、治療ごとにそれぞれ名称があります。
川崎病院の治療には、どんな特徴がありますか?
患者さん1人1人に寄り添いながら、適切な治療をより低侵襲に行うことを大切にしています。 カテーテル治療の一番のメリットは、体にメスを入れずに血管の中だけで病変部の手術ができるため、患者さんの苦痛や負担をできるだけ少なくした低侵襲での治療ができることです。川崎病院ではカテーテル治療ができる循環器内科の専門医が多数在籍していますので、日中はもちろん、休日夜間の時間帯においても緊急で対応することができます。
ただ、手術と比べて低侵襲とはいえ、やはりカテーテルを体の中に入れることは患者さんにとって苦痛がゼロではありませんし、入院も必要です。そのため川崎病院では、本当にカテーテル治療が必要かどうかをまず十分に吟味して治療を開始することにしています。これは病院によって方針が異なる点で、以前は少しでも症状があれば即カテーテルというところもあったようですが、今は十分な治療ができるお薬もたくさんありますので、もし内服のみでの治療だけで済むのであればそのほうが患者さんの負担は少なくなります。また、健診などで血管の病気が見つかったものの無症状な方の場合、カテーテル治療の検査入院の必要性についてお話しても、なかなか理解が得られないことがあります。そのような場合であっても、患者さんと相談しながら、それぞれの症状や状況、患者さんやご家族のお気持ちに寄り添いながら検査や治療の方針を決めていくところは当院の大きな特徴だと思っています。
「カテーテル治療と薬物療法」の組み合わせや、
「カテーテル治療とバイパス手術」のハイブリット治療も可能
動脈硬化のカテーテル治療について教えてください。
動脈硬化とは、加齢や生活習慣病などによって血管の内側にコレステロールが固まって血液の通り道が細くなっていく病気です。進行すると血管が石灰化して骨のように硬くなり、血液の流れがさらに悪くなってしまいます。
狭心症や心筋梗塞は、心臓の冠動脈での動脈硬化が原因です。当院では患者さんにとってできるだけ低侵襲な治療を行うことを大切にしていますので、内服のみで済む場合はなるべく薬物療法で治療し、必要に応じてカテーテル治療を行います。カテーテル治療では、カテーテルにバルーンを取り付けて冠動脈(心臓の筋肉に血液を送るための血管)の細くなっている部分で膨らませて血管を拡げたり、場合によってはその広げた部分を補強するために、ステントという金属でできた網状の筒を留置するなどの処置をして、血液の流れを良くします。ステントは医療器具とはいえ身体にとっては異物ですので、できるだけ使わなくてもよくなるように、カテーテル治療と薬物療法を組み合わせた治療を積極的に取り入れています。例えば、以前ならば冠動脈3本共にステントを留置していたようなケースでも、長期的に見て予後が変わらないようであれば、最も動脈硬化が深刻な1本だけにステントを留置して残りの2本は薬物療法で様子を見ていくようにしています。
動脈硬化から「重症下肢虚血(CLI)」になると、足切断の可能性も。
患者さんの足を救うため、4つの科で連携!
当院で力を入れて取り組んでいる疾患に閉塞性動脈硬化症があります。閉塞性動脈硬化症は、足の動脈が硬くなることによってさまざまな病気を引き起こす病気です。2023年4月から血管外科の専門医を迎え、血管のバイパス手術を組み合わせた外科とカテーテルの「ハイブリッド治療」ができるようになり、治療の選択肢が大きく広がりました。
足の動脈硬化は、どれだけ治療をしても、ステントを入れて血管の広がりを補強したとしても、まだまだ再発が非常に多い病気です。バイパス手術は、1回の治療の侵襲度はカテーテル治療などと比べると高くはなりますが、動脈硬化によって狭くなった部分を避けて血流が迂回できるように足の血管をつなぐことができるので、何度もカテーテル治療やステント治療を繰り返すよりも、結果的には入院の回数も日数も少なくて済むことが期待できます。患者さんの負担を減らして、できるだけ予後を改善できるように、循環器内科と血管外科とで連携した治療にも力を入れています
循環器内科、血管外科、形成外科、糖尿病内分泌内科の4つの科で連携して治療を行う「重症下肢虚血(CLI)」とは、どんな病気ですか?
足の動脈硬化がどんどん進行すると、深刻な血流不足によって足に潰瘍や壊死が起こります。このような状態を「重症下肢虚血(CLI)」とよびますが、放っておくと足を切断しなければならないこともある病気です。
もともと糖尿病にかかっている患者さんが、合併症として動脈硬化が進んで、「糖尿病性壊疽」という足が腐っていってしまう状態になってしまう場合があります。この場合は循環器内科だけで治療することは難しく、血管外科だけでも、形成外科だけでも、治療することはできません。そこで川崎病院では、患者さんの足を救うため、循環器内科、血管外科、形成外科、糖尿病内分泌内科の4つの科で連携して治療に当たっています。
当院は神戸大学形成外科より、全国的にも数少ない足を専門とした形成外科医を招聘し、より専門的な治療を行うことが可能になっています。
重症下肢虚血(CLI)の患者さんは、跛行など足の異変に気づかないまま放置して、病院に来た時にはもう足を切断せざるを得ないという方が非常に多いのです。特に、一人暮らしの高齢者の方は発見が遅れてしまいがちです。早く見つけて治療すれば、切断せず足を救える可能性は高まります。足の痛みやだるさ、腫れ、しびれ、変色など、何か異変を感じたら決して様子を見ないで、一度医療機関を受診していただきたいなと思います。
循環器疾患と骨粗鬆症(こつそしょうしょう)には深い関係が。
患者さんの未来のリスクを軽減するために「骨粗鬆症外来」を開設!
西堀先生は循環器外来だけでなく「骨粗鬆症外来」も担当されていますが、なぜ循環器内科の先生が「骨粗鬆症」を診療されるのですか?
狭心症や心不全などの循環器疾患で入院した患者さんが、退院後、骨折して再入院するが多々あります。その際、患者さんは整形外科病棟や整形外科病院に入院するため、多くの循環器内科医はそのことに気づいていません。
高齢者の場合、普通に歩けた人でも、1回の骨折で、杖が必要になったり、寝たきりになったり、施設に入所したりと、その先の人生が大きく変わってしまいます。
心筋梗塞や心不全といった循環器疾患からようやく回復し、日常生活を取り戻された患者さんが、骨粗鬆症に気付かず、骨折して寝たきりに…という悪い流れをわれわれは断ち切りたいと思っています。骨折は整形外科や外科の先生方にしか治せませんが、骨折の原因となる骨粗鬆症の治療は注射や飲み薬ですから内科医でも可能です。
「骨粗鬆症」についてもう少し教えて下さい。また「循環器内科」との関係は?
骨粗鬆症は、加齢やホルモンバランスの変化により、骨の構造が弱くなり、ささいなことで骨折しやすくなる骨の病気です。そして、骨粗鬆症は、ほぼ無症状のため骨折するまでは気づきません。背骨の場合、軽いストレッチ体操やくしゃみで圧迫骨折をおこすことがあり、頭や上半身の重みにより知らないうちに骨折していることもあります。
骨の健康には女性ホルモンが重要な役割を担います。女性は、閉経後、女性ホルモンの分泌が激減するため、骨粗鬆症患者の多くは女性です。最新の疫学調査によると、日本の骨粗鬆症患者数は1500万人以上とされ、これは国民の10人に1人にあたります。ご承知の通り、女性の方が長生きであること、既に日本では女性の2人に1人は50歳以上であることから、今後、患者の急増も危惧されます。高血圧や高脂血症と違い、骨粗鬆症の改善には年単位の時間を要することから、骨粗鬆症も早期発見、早期治療が重要です。
血管はコレステロールや加齢などにより動脈硬化をきたします。骨粗鬆症により、骨からカルシウムが溶け出し、それが動脈硬化の重症化である「血管石灰化」の材料となります。これらの関係には名前があり、「骨・血管連関」と呼ばれています。
血管石灰化は、狭心症や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症でしばしばみられ、われわれが行うカテーテル治療(PCIやEVT)の手技成功率や遠隔期成績*1を低下させ、われわれの悩みの種です。また血管石灰化は心臓の負荷を増大させ、心不全の一因となります。狭心症や下肢閉塞性動脈硬化症、心不全などによって歩けなくなること(不動)は、骨粗鬆症の原因にもなります。また背骨の圧迫骨折により、上半身が短縮し背中が丸くなることは、肺活量を低下させ、また心臓を圧迫することにつながっています。これらのことから、骨粗鬆症や骨折は循環器と無関係ではないのです。また動脈硬化性疾患や心不全は、骨折のリスクであるという報告もあります。循環器内科医が骨粗鬆症診療をおこなうことは、非常に理にかなっているのではないかと思っています。
川崎病院では、動脈硬化が関わる狭心症・心筋梗塞患者や心不全の骨折予防のために、また骨粗鬆症患者の心臓や血管の病気を早期発見するため、循環器内科でも積極的に骨粗鬆症を診療しています。そのため、骨粗鬆症学会認定医を取得し、2019年7月より循環器内科医による「骨粗鬆症外来」を開設しました。これは全国でもかなり珍しいことで、川崎病院だけではないかと思います(2024年1月現在)。
骨が気になる方、骨折予防をしたい方は、誰でも「骨粗鬆症外来」を受診できます
心臓や血管の病気のない方の場合はどうでしょうか?「骨粗鬆症」だけでも受診できますか?
もちろん可能です。骨折したことがある方、若い頃と比較すると身長が縮んだ、背中が丸くなってきた、腰痛や背中の痛みが気になるなど背骨の圧迫骨折を疑う症状のある方は「骨粗鬆症外来」でご相談ください。骨粗鬆症の検査をさせて頂きます。骨折歴のない若年の無症状の方、骨密度検査だけを希望される方の場合は、人間ドックをご案内しています。また明らかに骨折されていて痛みのひどい場合は、整形外科外来をご案内します。
近年、非常に治療効果の高い骨粗鬆症治療薬が使えるようになりました。骨粗鬆症治療は適切な薬をきちんと継続すると、骨折リスクを半減させることが分かっています。誰でも加齢とともに骨は弱ってゆきます。また、どれだけ食事に注意して、努めて運動しても、残念ながら、若い頃のようには女性ホルモンは分泌されません。
神戸は坂道の多い、風光明媚な街です。現代は「100年時代」と言われています。この街でいつまでも元気に暮らすには、健康な「心臓」と、丈夫な「骨」が大切だと思っています。「骨粗鬆症外来」に関心のある方はお気軽に病院の方までお尋ねください。
- 1)遠隔期成績:退院後における再発や再治療の有無
プロフィール
西堀祥晴 内科医/循環器内科・血管内治療科 主任部長
1995年兵庫医科大学卒。兵庫医科大学病院、大阪暁明館病院、馬場記念病院、京都第二赤十字病院、倉敷中央病院にて研鑽を積んだ後、2010年より現職。兵庫医科大学臨床教育教授。日本循環器学会循環器専門医、米国心血管インターベンション学会正会員(FSCAI)、日本心血管インターベンション治療学会名誉専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、日本認知症予防学会専門医。「人生100年時代」における高齢者のトータルケアを目指し、幅広く診療中。