インタビュー

トップページ/インタビュー/指導医が語る、総合診療科の使命とキャリア

医療法人川崎病院は、神戸市兵庫区に位置する278床の中規模急性期病院です。200床以上の急性期病院で在宅医療を行う施設は全国的にも珍しい中、2021年から訪問診療を開始しました。この活動を通じて、中規模急性期病院が訪問診療を提供することの重要性と使命について、内科・総合診療科(家庭医療専門医・在宅専門医)の松島和樹先生に話を伺いました。

オールラウンドに診る技術を経験できる

スペシャリストというよりジェネラリストとしての経験を積む

総合診療専門医・家庭医療専門医プログラムでの学び方は、他の診療科とはちょっと異なっています。たとえば消化器内科の場合、消化器疾患を繰り返し経験したり内視鏡を何度も練習したりして、段階を追って熟達していきます。

一方、総合診療医は、多種多様な症状を持つ患者さんを対応します。中には診断がつかないような不確実性の中で診療を続けていくこともあります。そのため、特定の技術を高めることよりもオールラウンドに診るための技術が必要になります。

さらに、一人の患者さんを長期的に診ていくことが多いため、症状だけでなく、患者さんの心理状態や家族や生活背景も診て、一人ひとりに合った医療を提供することが必要です。そのための考え方やフレームワークについて学び、経験値を増やしていくのが総合診療医としての成長です。

実践と振り返りから成長する「省察的実践家」

振り返りから学び、実践と成長のサイクルを繰り返す

私が作っているプログラムの中では、「振り返り」を大事にしています。

総合診療医は、さまざまな症例に対応することが求められ、予期していない事態に対処しなければならないことが多々あります。あらかじめ教科書などで勉強してから実践する、という流れで対応できないことも多々あります。

そのような時は、実践しながら調べ物をして学び、事態が終了した後に実践の振り返りを行い、できたことや改善点を言語化することで学びを深め、自分の成長の課題を見出します。そして、また次の実践に生かしていくというサイクルを繰り返します。このようなプロセスを踏んで学びを得る学習者のことを「省察的実践家」(せいさつてきじっせんか)といいます。

研修プログラムの中でも、振り返りの機会をしっかり確保することを大事にしています。また、振り返り以前の「経験」がやはり重要なので、できるだけ多種多様な場の経験を積めるように計画しています。日々の診療は毎回チャレンジであり、学びになります。

総合診療医が必要不可欠な時代

かかりつけ医がいることで防げる救急受診

大学教育のなかでは総合診療・家庭医療のことを学ぶ機会が少ないため、学生は領域別の専門家になるのが当たり前という考えになっているかもしれません。もちろん専門医療を高めていくことは重要です。しかし、専門家だけでは医療は成り立ちません。

高齢化社会の中で、複数の健康問題を持つ患者が非常に多くなっています。

例えば糖尿病、高血圧、心房細動、気管支喘息、逆流性食道炎、変形性膝関節症、骨粗鬆症、乳癌術後、認知症を持つ80代の女性を考えてみましょう。全て専門家だけで対応するとなると、8カ所以上も通院しなければならなくなります。場合によっては薬剤の重複や相互作用による害があるかもしれません。そして、もし体調不良となった時はいったいどこの病院に行けばいいのでしょうか?

総合診療医が適切にケアすることで、普段の通院は1カ所で済み、薬剤の整理もされ、非常時の対応もスムーズで、予防についても検討することができます。

総合診療=へき地医療というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、都市部においても総合診療は必要です。先ほどの例のようなケアの細分化(fragmentation)は都市部ほど起こりやすいです。さらに心理社会面も含めて複雑で困難な事例は急増しており、それらに対応できる総合診療医の存在も重要視されています。

最近では、健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)といって、個人の健康問題の原因の一端が生活環境や社会にある、という考え方があります。総合診療医は個人のケアはもちろんですが、こうした視点を持ち、地域やコミュニティの改善に向けた活動をすることも大事な仕事です。

将来的に開業を考えている方が増えているように思いますが、専門領域での開業でなければ、総合診療・家庭医療を学ぶことは必須だと思います。そして学び出すのは早ければ早いほどよいと思います。

総合診療専門医のキャリアプランですが、プラス数年学ぶことで別の専門医(在宅専門医、家庭医療専門医、病院総合診療医など)を取得できます。また、大学院に進むことや、地域作りや医学教育などのスペシャルインタレストを深めていくこともあります。

川崎病院の総合診療専門医・家庭医療専門医プログラムの特徴は、実績ある伝統施設と密に連携しているということと、丁寧な研修をしていることです。ぜひ、見学に来てください。

プロフィール

松島 和樹(家庭医療専門医・在宅専門医)

2011年神戸大学卒。神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を修了し、福岡県の飯塚・頴田家庭医療プログラムで後期研修を行う。2016年に家庭医療専門医を取得。関西家庭医療学センター/金井病院 家庭医療センター長を経て、2021年から医療法人川崎病院総合診療科医長。2023年11月からは、新設した「在宅医療センター」のセンター長を務める。

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